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神戸地方裁判所 平成8年(わ)1042号 判決 1997年5月23日

本店の所在地

兵庫県尼崎市次屋三丁目一九番三三号

法人の名称

株式会社サナ流通

(右代表者代表取締役 三谷浩)

本籍

大阪府高石市東羽衣三丁目三〇九番地

住居

同府東大阪市西鴻池町二丁目三番五号

会社役員

三谷浩

昭和一一年六月一〇日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官島宣満、弁護人(私選)森末暢博各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社サナ流通を罰金二〇〇〇万円に、被告人三谷浩を懲役一年にそれぞれ処する。

この裁判の確定した日から、被告人三谷浩に対し、三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社サナ流通は、兵庫県尼崎市次屋三丁目一九番三三号に本店を置き、輸出梱包業を営む法人であり、被告人三谷浩は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人三谷浩は、同会社の業務に関し、不正の手段により法人税を免れようと企て、

第一  同会社の平成四年一月一日から同年一二年三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億九八五〇万八〇一円で、これに対する法人税額が七二一三万七二〇〇円であるにもかかわらず、売り上げの一部を除外する架空仕入を計上するなどの方法で、所得金額のうち四八九一万六九五一円を秘匿した上、平成五年二月二六日、兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号所在の所轄尼崎税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億四九五八万三八五〇円で、これに対する法人税額が五三七九万三三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額七二一三万七二〇〇円との差額一八三四万三九〇〇円を免れ

第二  同会社の平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における所得金額が一億〇二一一万八二二九円で、これに対する法人税額が三五二九万三八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の手段により、所得金額のうち二〇三二万二五六五円を秘匿した上、平成六年二月二八日、前記尼崎税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八一七九万五六六四円で、これに対する法人税額が二七六七万二六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額三五二九万三八〇〇円との差額七六二万一二〇〇円を免れ

第三  同会社の平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における所得金額が一億六六一七万三四〇五円で、これに対する法人税額が六〇五四万八八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の手段により、所得金額のうち一億〇一三五万七五七六円を秘匿した上、平成七年五月一七日、前記尼崎税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六四八一万五八二九円で、これに対する法人税額が二二五三万九六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額六〇五四万八八〇〇円との差額三八〇〇万九二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の漢数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の査察官調書二二通(一〇ないし三一)

一  龍田周三の大蔵事務官に対する質問てん末書(八、九)

一  登記官作成の商業登記簿謄本(一)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(二、五)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(三、六)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書及び証明書(四、七)

(法令の適用)

被告人三谷浩の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人三谷浩を懲役一年に処し、また、被告人三谷浩の判示各所為は被告人会社の業務に関してなされたものであるから、被告人会社に対しては、法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が処せられるべきところ、いずれも情状により同法一五九条二項を適用し、以上は前記改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により右各罪の罰金の合算額の範囲以内で被告人会社を罰金二〇〇〇万円に処し、被告人三谷浩については、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役である被告人三谷が、被告人会社に関し、三事業年度にわたり合計一億七〇五九万円余りの過少申告を行って、合計六三九七万円余の法人税を免れた事案である。ほ脱額は右のとおり多額であり、ほ脱率も平均三八・一パーセントであって決して低いとはいえず、動機も倒産寸前の会社を寝食を忘れて再建させ黒字が出るようにまでしてやっとボーナスを自分に支給したところ、自分と会社の双方に課税されたことから二重に税金を払うのは割が合わないなどとして、税金のかからない裏金を捻出しようとしたというものであって、誠に自己中心的であるうえに、その方法も仕入先から架空の請求書を発行してもらうなど巧妙悪質であって、脱税事犯が国民の租税負担の公平を害する重大犯罪であることを考えれば、被告人らの責任は決して軽いとはいえない。

しかしながら、被告人三谷は個人的利益を図ったり個人的費消に使用したりするつもりで脱税を行ったわけではないこと、修正申告により延滞税を含めて既に本税を納付済みであること、被告人は、倒産寸前の被告人会社の経営を引き受け、寝食を忘れて会社再建のため努力した末、同会社を納税できるような経理状態にまで向上させたものであり、その意味では社会的に貢献しているといえ、また、本件各犯行を反省し、本件裁判終了後引責辞任することを決意していること、被告人三谷は古い罰金前科があるものの他に前科前歴はないこと等被告人三谷にとって有利な事情も認められるので、被告人三谷に対しては、右事情を考慮してその刑の執行を猶予することとした。

よって主文のとおり判決する。

(求刑・被告人会社につき罰金二〇〇〇万円、被告人三谷につき懲役一年)

(裁判官 江藤正也)

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